長崎県弁護士会 会員 松尾茂利
私は一昨年、佐世保市の包括外部監査人を務めました。その過程で、いじめ問題に関しての教育現場の課題であると感じたことを手短にお話ししたいと思います。「いじめ防止対策推進法」の欠落点です。
その一は「(いじめ)情報の共有化システム」構築の欠如です。この情報の共有化とは、①ある一時点での関係者間での情報の共有化と、②時空間をまたいだところの情報の共有化を含むものです。
①は、いじめ問題発生時点において関係者間で必要・適切な範囲で情報を共有するもので、比較的イメージしやすいと思います。他方で②はイメージしがたいものといえます。例えば、児童生徒は小学校6年間、中学校3年間、高校3年間の合計12年間、いじめ被害に遭遇する危険性がありますが、小学校6年生時に発生したいじめの主原因が小学校3年時にあったということは一般にあり得ることです。そうすると小学校3年時の担任が得ていた情報を小学校6年時の担任に確実に伝える方策が必要といえます。しかし、このような情報の共有化システムをいじめ対策の重要な施策として採用している例を私は寡聞にして聞いたことがありません。もちろん責任感溢れる先生方において、個別にいじめ情報が引き継がれていることは私も承知するところです。
しかし、教職員には転勤や退職が生じることとなり、その場合には必然的に情報の承継は遮断されることとなります。したがって、必要なのは人的なものに依拠することのない、情報の共有化(承継)を可能とする組織的なシステムの構築です。
その二は、教育現場でのいじめ対策決定の権限と責任の明確化、そして記録の作成と保存ができていないということです。現実の教育現場においては、いじめに関する判断権者(=責任者)は学校毎にバラバラという状況が往々にあります。このような状況では誰がいじめ対策につき権限と責任を有するかが明確ではなく、過去のいじめの内容等を検討する場合にも、その当時のその学校のいじめに関する組織体制の調査から始めなければならなくなるという問題が生じます。
この調査の際、記録化の手続が欠如していると、更なる重大問題と発展してしまうということも想定されます。私の監査の経験からすれば、過去のいじめ判断等に関する議事録は、大抵の場合、作成されていないか保管されていないというのが実情です。
以上、本稿で指摘した点が改善されない限り「いじめ撲滅」という目的の達成はないものと考えます。私は監査を通じてその思いを強くしました。この2つの点については、法制化が望まれます。
(2018年10月14日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)