長崎県弁護士会

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長崎県弁護士会 会員 塩飽 昂志

 

 交通事故に遭ったのに相手が保険に入っておらず賠償金を払わない場合,あるいは離婚した元パートナーが養育費を払わない場合,あなたはどうしますか。
 支払日や支払方法を話し合って決めても,中には無視する人や連絡が取れなくなってしまう人も残念ながらいます。だからといって,相手の家に無断で入って相手の物やお金を勝手に持ち帰ったりすれば,住居侵入や窃盗等の犯罪になってしまいます。
 そのような場合,裁判所での判決や和解調書があれば,国家があなたに代わって,その権利を実現してくれます。具体的には,裁判所に申立てを行い,相手の財産を強制的に差し押さえ,売却(競売)したお金から支払ってもらう方法等があります。このような強制執行のルールなどを定めた法律が民事執行法です。
 実は,この民事執行法,今年4月1日に改正法が施行されました。改正点は複数ありますが,今回は相手の財産を明らかにさせる制度について説明します。
 まず,相手の財産を差し押さえる場合,基本的にあなたが相手の財産を具体的に書いて裁判所に申し立てる必要があります。例えば相手の預貯金を差し押さえる場合は,相手の預貯金がある金融機関名と支店名を書く必要があります。相手の給料を差し押さえるには,相手の勤務先を書かなければなりません。
 しかし,交通事故の相手は多くの場合,赤の他人です。元パートナーであっても職を転々とするような人であれば,相手の財産を具体的に書くことが困難な場合もあります。
 そのため民事執行法には財産開示手続きという制度が設けられています。相手を裁判所に呼び出して,相手に財産を明らかにさせる制度です。しかし,この制度は,相手が裁判所に来ないときや,うそを述べたとき等のペナルティーが軽く,これまであまり利用されていませんでした。
 そこで,今回の改正法では,6月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が設けられ,ペナルティーが強化されました。
 また,第三者からの情報取得手続きが新設されました。相手の不動産に関する情報を登記所に対し,給料に関する情報を市町村や日本年金機構等に対し,預貯金等に関する情報を銀行等に対して,裁判所を通じて明らかにさせることができるようになりました。
 ただし,不動産と給料に関する情報取得には,前述した財産開示手続きを先にする必要があります。給料に関する情報取得は,養育費等の請求に関する場合に限られています。
 これまでは泣き寝入りせざるを得ない事案も多く見受けられましたが,今後は,法改正による効果に期待したいところです。

 

(2020年7月5日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)

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