長崎県弁護士会 会員 増﨑 勇太
2020年4月1日,「民法の一部を改正する法律」が施行されました。これにより,1986(明治29)年の制定から約120年間ほとんど改正されてこなかった民法が大きく変わることとなりました。
民法とは,契約の締結などについてのルールを定めた法律であり,数ある法律の中でも最も基本的な法律の一つです。普段,スーパーやコンビニなどで買い物をするのは「売買契約」であり,アパートの部屋を借りるのは「賃貸借契約」です。このように,民法が定める内容は,日常生活にも深く関わっています。
今回の改正では,民法の中でも「債権法」と呼ばれる,取引をした者同士の権利関係を定める部分を中心に改正されました。ここでは,債権法の改正のうち,「保証」に関する改正について取り上げます。
保証とは,例えば賃貸借でいえば,借り主が家賃等を滞納して支払わない場合に,借り主に代わって支払うと約束することをいいます。そして,賃貸契約等の一定の範囲で生じる債務を保証する契約を根保証契約といいます。この根保証契約では,保証人が負う責任の範囲が明確に定められていないことが多く,賃借人が長期間賃料の支払をしなかった場合などに,保証人は予期してない多額の責任を負うこともありました。
今回の民法改正により,個人が根保証契約を締結する場合には,責任の上限額である「極度額」を定めることとされました。保証人になることを頼まれたとき,極度額を確認すれば,万が一の場合に自分がその極度額の範囲で責任を負うことができるのか,よく検討したうえで保証人になるか決めることができます。
また,事業の経営者に「迷惑はかけないから」などと頼まれて,言われるがまま保証人になってしまい,後に多額の債務を負ってしまう事案も少なくありません。改正民法により,事業用融資を個人が保証する場合には,公正中立な立場から事実の認証等を行うことを職務とする「公証人」が保証意思を確認し,確認した内容を記載した「公正証書」を作成することになりました(事業の共同経営者や事業主の配偶者等は例外となる場合があります。)。
さらに,事業主が個人に対して事業上の債務の保証を依頼する場合,保証を依頼する場合,相手に対し,財産状況や他の債務の有無などを情報提供する義務も定められました。 これらの規定により,保証人となるのか否かを慎重に検討する機会が確保されるようになります。
もっとも,4月1日以前に締結された契約は,改正民法が適用されません。具体的な事案については弁護士にご相談ください。
(2020年8月23日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)