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1 本年5月24日、水戸地方裁判所土浦支部は、1967年(昭和42年)8月28日に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件、いわゆる「布川事件」について、櫻井昌司氏と杉山卓男氏に対し、再審無罪を言い渡し、昨日(6月8日)の経過により確定した。
両氏は、第一審から一貫して無罪を主張していたものの、1978年(昭和53年)7月3日には、最高裁において、上告棄却され、無期懲役刑が確定した。その後も第一次再審請求を行ったが、1992年(平成4年)9月9日には、最高裁は特別抗告審決定にてこれを棄却した。
両氏は、2001年12月、第二次再審請求を申立て、再審開始決定が認められたにもかかわらず、検察官による即時抗告、特別抗告がなされ、最高裁が棄却して再審開始が決定されたのは、2009年(平成21年)のことである。
そして、ようやく過日の再審無罪判決に至ったのである。両氏の無実は証明されたが、この日までに43年余りの歳月を要した。この日のために永年にわたり無実を訴え続けてきた両氏、これを支えてきた御家族・支援者の方々、弁護団の活動にあらためて敬意を表する。
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2 そもそも本件強盗殺人現場には激しい格闘があったことや室内が物色されたことが明らかな多くの痕跡があったが、両氏の指紋や毛髪は全く存在せず、両氏と犯行を結びつける客観的証拠に乏しく、両氏の自白に依存していた。
しかも、その自白は、代用監獄で留置されている間に作成されたものであり、捜査段階においても自白と否認を繰り返していたほか、犯行状況、物色行為、隠蔽 工作など、犯行の重要な部分で変遷していた。それにもかかわらず、自白の任意性・信用性を安易に肯定し、誘導され変遷が顕著な目撃証言という脆弱な供述証 拠のみを根拠に有罪が認定されていた。
再審無罪判決が、上記のような問題点を指摘した上で、両氏の捜査段階の自白には、信用性を肯定できず、任意性もそれ相応の疑いを払拭できないと判断した点は高く評価できる。
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3 本件では、自白後否認に転じると拘置所から代用監獄に送り、その間に再び自白をしているところから、代用監獄が自白の誘導・供用の温床となっていることが明らかである。
また、本件において裁判所が警察の取調べの最終段階における自白録音テープに大きく影響を受けて自白の任意性を認めてしまっており、このことは自白している部分だけの一部録音録画の危険性を端的に示すものである。
さらに、両氏が無罪であることを示す証拠はずっと隠されたままであり、第二次再審請求後、実に30数年ぶりに両氏に有利な証拠が開示され、再審開始決定の有力な証拠とされたのであり、このことは検察官手持ちの証拠の全面開示の必要性を改めて示したものといえる。
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4 警察・検察及び裁判所は、両氏に対し、強盗殺人犯の汚名を着せ、長期間筆舌に尽くしがたい苦しみを負わせてきたのであり、その責任を猛省すべきである。
これまでも、いわゆる氷見事件、足利事件等において無罪判決が出され確定している。これらのえん罪事件に共通するのが、虚偽の自白を強要され、その自白を安易に信用することから誤判が生まれてきたという構造である。
当会は、今後このようなえん罪の悲劇を二度と繰り返さないよう、虚偽自白を生み出し、不法な取調べの温床となっている代用監獄の廃止、取調べの全過程の録画、証拠の全面開示の実現等、えん罪を防止するための刑事司法の実現に全力で取り組むことを表明する。
会長 森本精一