少年法「改正」法は、平成19年5月25日、参議院で可決成立した。
当会は、改正案に関し従前、政府提出法案に反対する会長声明を発して多くの問題点を指摘していた。
今回成立した「改正」法について、(1)ぐ犯少年の疑いのある者に対する警察官等による調査権限が削除されたこと、(2)国選付添人選任の効力が少年の釈放後最終審判まで維持されるようになったことなど、当初の改正案に修正が加えられたことは評価できるところである。
然しながら、「改正」法には、?少年院収容可能年齢が「14歳以上」から「おおむね12歳以上」に引き下げられたこと、?触法の疑いのある少年について警察官の調査権限規定を削除しなかったこと、?保護観察中の遵守事項違反を新たに審判事項とする規定を削除しなかったこと、などの問題点が依然として残っている。以下各問題点について、詳述する。
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1.少年院収容可能年齢を「14歳以上」から「おおむね12歳以上」に引き下げている点について
そもそも低年齢で非行に陥る少年は家庭に問題があるケースが多く、このような少年を立ち直らせるには福祉的観点からの育て直しが重要であり、具体的には児童自立支援施設における家庭的な雰囲気の下で基本的かつ健全な生活をとおして更生させること等が年少者にとって重要である。しかし、「改正」法はこうした児童自立支援施設による非行問題の対応能力の拡張を検討せず、個々の重大事件の発生を念頭において収容可能年齢を引き下げたのみである。
また、「おおむね12歳以上」という規定によって1歳程度の幅をもって運用されるとなると(平成19年4月18日衆議院法務委員会質疑)、場合によっては小学生も少年院送致の対象となるほか、11歳の児童の場合、小学6年生なら対象となり小学5年生なら対象にならないのか、についても内容が不明確であり、明確性の原則に反し、憲法違反(31条)の疑義も生じる。
さらに、「少年院送致」のラベリングにより少年の更生が阻害されることは、年少者の場合はより深刻であるほか、児童自立支援施設で義務教育履修のための教育課程が実践されていることと比較して少年院の場合、少年の教育権の保障が十分とはいえない弊害もある。 -
2.触法少年の疑いのある者に対する警察官の調査権限を削除していない点について
少年は、暗示・誘導の影響を受けやすい。この危険は少年が低年齢であればあるほど大きいのであるから、警察官が触法少年の疑いのある者を取り調べることができるようになると、年少の少年が虚偽の自白に追い込まれることが危惧される。
平成16年2月に発生した大阪地裁所長襲撃事件においては、当時13歳から29歳の5人が逮捕・補導され、少年3名は捜査段階で自白していた(成人2名は捜査段階から一貫して否認し、一審で無罪判決を受けている)。しかるに、事件当時14歳の少年に対する少年院送致審判決定に対する抗告審で「重大な事実誤認」を理由に大阪高裁が家裁決定を取り消し、原審に差し戻しとなっている。
このような「穏当を欠く」取り調べにより、重大事件について、こうした少年らの虚偽の自白供述がなされたことを看過することができない。
しかるに、「改正」法では、警察による少年の調査への弁護士の立会いやビデオ録画化を定めておらず、少年が警察によって虚偽自白をとられ冤罪につながるおそれが存在している。
また、触法少年の疑いのある者の定義として「客観的な事情から判断して」「疑うに足りる相当な理由のある者」とするも、この「相当な理由」の有無の判断は家庭裁判所の審判手続での事後的審査を受けるとはいえ、第一義的には調査を行う警察官自身が行うのであるから、調査権限の範囲が不明確であり、法定手続の保障(憲法31条)や令状主義(憲法33条)の趣旨にも反する。 -
3.保護観察中の遵守事項違反を理由とする少年院送致を新設している点について
少年の自律的更生のためには少年と保護司との間で信頼関係を築くことが不可欠であるが、少年院送致の威嚇のもとでは、信頼関係の構築は期待できない。
保護観察処分による少年の更生の実効性を確保するためには、遵守事項違反により少年を少年院に送致するのではなく、保護観察官の増員や資質の向上をまず検討すべきである。
また、現行少年法3条1項で定義される非行少年としての犯罪少年、触法少年、ぐ犯少年以外に「ぐ犯」にすら該当しない遵守事項違反により少年院送致の審判を行うことになれば、遵守事項違反の内容が多種多様であることから要件事実に該当するか否かの判断基準が不明確となるおそれがある。
よって、当会は、今後国選付添人対象事件のさらなる拡大を求めるとともに、個々の会員の付添人活動を通じて、少年法「改正」法の運用を注視し、更なる改正を求めるなど、少年の最善の利益を実現する法制度確立を強く求める。
会長 山下俊夫