国選弁護人の報酬額は、2000(平成12)年度から地方裁判所における標準的事件(3開廷)については金86,400円とされ、その後2年間据え置かれていた。ところが、本年度政府予算ではこれが金85,600円に引き下げられた。
そもそも我が国においては、刑事事件の7割以上を国選弁護事件が占めており、国選弁護制度は、刑事被告人の憲法上の権利である弁護人選任権を実質的に保障する制度として機能しているというべきである。とすれば、被告人が資格を有する弁護人による十分な弁護を受けるためには、国選弁護人の活動を経済的に担保する必要がある。この点、日本弁護士連合会の試算によれば、標準的事件における適正な国選弁護人の報酬は200,000円とされている。
しかしながら、国選弁護人の報酬は、弁護活動の内容において私選弁護人と何ら相違がないにもかかわらず、極めて低額に抑えられてきた。しかも、事前接見の日当、交通費、示談交渉のための活動費等は全く支給されず、記録謄写料も全額支給されるわけではなく、国選弁護人の負担となっているのが実情である。このような実情においては、国選弁護制度そのものが国選弁護人の負担と犠牲の上に成り立っていると言っても過言ではない。特に、小規模地方都市等においては、必然的に弁護士一人当たりが担当する国選弁護事件が多数となっており、各国選弁護人の負担と犠牲は深刻なものである。
さらに、司法制度改革推進本部では、2006(平成18)年度から国費による被疑者弁護制度導入を前提に検討作業が進められているが、この制度の実現には、現状を大きく上回る国選弁護を担当する弁護士の確保が必要不可欠であり、そのためには国選弁護人の報酬を適正なものとすることが不可欠の前提というべきである。
このような事態のもとで、2003(平成15)年度政府予算は、ただでさえ不十分な国選弁護人の報酬をさらに減額するというものである。これは、被告人に対する十分な弁護活動を抑制し、ひいては、被告人の弁護人選任権を侵害するとともに、国費による被疑者弁護制度の導入を阻害する要因ともなりかねないものというべきである。
よって、当会は、本年度政府予算における国選弁護人報酬の引き下げに強く抗議するとともに、国選弁護人報酬の大幅な増額のために必要な予算措置を講じるよう強く求めるものである。
会長 吉田良尚