長崎県弁護士会 会員 加藤貴大
合理的理由がない、いわゆる「ブラック校則」が近年話題になっています。
この点、長崎県教育委員会は、令和3年に、下着の色を指定しそれを確認するような行為を例として挙げて校則を見直すよう通知を出し、その点は概ね改善されたようです。
しかし、それ以外の校則は改善されたのでしょうか。例えば、長崎市内の公立中学校に見られる、「靴・靴下は白色に限定」、「漫画や金品等の不要物は没収し、返却は職員が判断する」、「服装規定に違反する生徒は改善しなければ教室に入室できず、学校で改善できない場合は帰宅し改善してから登校する」、「変な髪型、髪色、変な服装の生徒には保護者に連絡し迎えに来てもらい、正しくしてから再登校」、「何か特別なことがある場合は必ず学校の許可を必要とし、生徒が勝手に判断してはならない」等の校則はブラックなのではないでしょうか。
校則とは、生徒が遵守すべき学習上、生活上の決まりです。校長が定めます。ただ、何でも定めることができるわけではありません。校則は、生徒が健全な学校生活を送り、よりよく成長・発達していく教育目的のために設けられますから、その内容は、教育目的を達成するために社会通念上合理的な範囲内であることが必要です。したがって、合理的な理由を説明できない校則は定めることができません。
前記校則は、教育目的が何なのか、内容の合理的理由が何かを説明できるのか疑問があります。加えて、何が「変な髪型等」なのか、「特別なこと」なのか、明確ではありません。
他県の自治体に目を向けると、福岡市、熊本市などの自治体では、市の教育委員会等が校則見直しガイドラインを定め、校則の見直しを促進しています。これらガイドラインでは、長崎の公立中学校では未だ散見される、性別で髪型や制服を分けることや、防寒具の禁止等体調に悪影響が出るもの、靴下の色を指定するもの等の校則は必ず見直すべきとされています。
さらに、文科省は、学校・教職員向けの基本書である生徒指導提要を令和4年に改正し、校則について生徒の意見を反映させるため生徒への聞き取りや生徒会で校則を議論する機会を設けるのが望ましいとしています。しかし、生徒の意見を反映させる手続について校則に規定する学校はごく少数にとどまっています。
このように、他県の自治体の取り組みや文科省の生徒指導提要の内容と対比すると、残念ながら長崎の公立中学校の校則の改善状況はいまだ十分とはいえません。教育委員会が校則見直しガイドラインを定めれば、このような状況を改善できます。
学校から合理的な理由のない不当な校則を一方的に押し付けられ、声を上げられず不利益を受けるのは生徒たちです。
長崎県内の各教育委員会は、校則見直しガイドラインを速やかに策定し、また各学校は、生徒の意見を聞きつつ、人権に配慮した校則への改正を速やかに実行すべきではないでしょうか。
(2024年7月7日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)