長崎県弁護士会 会員 福﨑龍馬
日本初の女性弁護士で、後に裁判官になった実在の人物をモデルとした物語が朝のテレビドラマで放映されていました。皆さん、見ていましたか。戦前や戦後間もない時期、女性の権利は、法律上、今よりも厳しく制限されていました。そのような時代に、初の女性法曹としての道を切り開いた人物が描かれており、波乱万丈で、とても面白い物語でした。
戦前の民法は、男尊女卑の思想に貫かれた不平等な法律でした。結婚した女性は無能力者とされ、重要な法律行為をするには常に夫の同意を得なければならず、妻の財産は夫が管理するとされていました。また、「妻の不貞行為」は離婚原因になるのに「夫の不貞行為」は離婚原因になりませんでした。ドラマの中では、主人公が、男女の不平等に憤りを覚えたり、怒ったりしながら、懸命に、法曹の道を進んでいく姿が描かれています。
判断能力が十分備わっている女性を無能力者として取り扱うことは、現代の感覚からするとあり得ないことですが、戦前の民法では、実際、そのような取扱いがなされていたのです。
戦後制定された日本国憲法24条2項では「配偶者の選択、財産権、…離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と定められました。この憲法の理念に基づき、戦前の民法も改正され、上記のような形式的な不平等はある程度解消されました。
しかし、現代社会においても、男女間の実質的な不平等は依然として残っています。日本では、結婚して姓を変える人は、女性が95%と圧倒的に多い状況です。改姓によりアイデンティティの喪失感を抱いたり、結婚後も働き続ける女性が増える中、旧姓で積み上げてきたキャリアが改姓後の本人とつながらなくなったりするなど不利益な状況にあります。今回の自民党総裁選でも大きな争点となりましたが、法律で同姓を強制するのではなく、婚姻関係にある夫婦の選択により別々の姓を名乗ることを認める選択的夫婦別姓制度の導入が憲法24条2項に合致します。
また、男女間の問題にとどまらず、LGBTQなどの性的マイノリティに対する差別や偏見も最近ようやく、社会的な問題として広く認知されるようになりました。令和6年3月14日、札幌高等裁判所は、控訴審として初めて、同性婚を認めていない民法等の規定は憲法24条、14条1項に違反するとの判断を示しました。性的マイノリティに対する国民の考え方が変化してきており、この変化が裁判所の判断にも影響を与えているのかもしれません。
県弁護士会では、10月19日午後2時から、長崎県建設総合会館にて、憲法学者の木村草太教授による講演会「憲法における女性と家族―両性の本質的平等と婚姻の自由―」を開催します。朝のテレビドラマでも描かれた女性の権利の歴史を、憲法の視点から考えてみませんか。
(2024年10月13日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)