長崎県弁護士会 会員 鷲見賢一
昨年、相続に関する法律が改正されました。これにより、遺産を分けるときのルールが大きく変わります。何がどう変わるのか、今年7月から適用されるルールのうち二つをご紹介します。
はじめに、預貯金の払戻し制度です。
銀行などの金融機関が相続の発生を知ると、故人の預貯金は自由に払い戻しができなくなります。一般に口座の“凍結”といわれるものです。遺産を分ける前に、凍結された口座から払い戻しを受けるには全相続人の合意が必要とされています。
しかし、故人の葬儀費用や負債の支払いを急ぐなど、全相続人の合意を悠長に待てない事態も考えられます。そこで、改正法により、本年7月1日以降は、一定の額に限り各相続人が個別に払い戻すことができるようになりました。
もっとも、払い戻しを受けられる額には制限があります。また、この制度により払い戻しを受けると、相続財産の一部を先行して取得したものと扱われます。
次に、相続人以外の親族の貢献に報いる制度です。
例えば、Aさんが長年、夫の父親の介護に尽くしてきたとします。ところが、義父が亡くなっても、Aさんは相続人ではありませんから、相続財産を取得することはありません。介護を全くしないのに遺産を取得できる相続人と比べると、不公平な感じがします。
そこで、Aさんのように相続人以外の親族が、故人に対して無償で療養看護などの労務を提供した場合、そのことによって余分な出費が抑えられたなど故人の財産に対する特別の貢献があったといえるときには、その貢献に対する一定の対価を相続人に請求できることになりました。これを、特別寄与料といい、本年7月1日以降に開始した相続から適用されます。
特別寄与料について協議がまとまらない場合は家庭裁判所に解決を求めることができますが、期間制限がありますので注意してください。具体的には、相続開始および相続人を知った時から6カ月以内に裁判所に請求しなくてはなりません。相続開始や相続人を知らない場合でも、相続開始から1年がたつと請求できなくなります。
相続は「争続」と言われることもあります。ご紹介した法改正の内容を含め、十分な知識を持つことが不要な争いや協議の長期化を防ぐことにつながります。そのためには専門家の力を借りることも大切です。困ったときは弁護士にご相談ください。
(2019年4月24日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)