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- 1 現在,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会において,クレジットカード等の交付・付与時の過剰与信規制について,以下の規制緩和策が議論されている。
(1) 利用限度額10万円以下のクレジットカード等の交付・付与時には,指定信用情報機関への信用情報の照会義務(割賦販売法第30条の2第3項)及び基礎特定信用情報の登録義務(同法第35条の3の56第2項及び第3項)を免除すること。 (2) クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合には,支払可能見込額調査義務(同法第30条の2第1項)を免除すること。 (3) クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合には,指定信用情報機関への信用情報の照会義務及び基礎特定信用情報の登録義務を免除すること。
- 1 現在,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会において,クレジットカード等の交付・付与時の過剰与信規制について,以下の規制緩和策が議論されている。
- 2 しかし,消費者にとってクレジット契約は,利便性がある一方,支払能力を超えた利用により多重債務に陥るリスクがある。過剰与信規制は過剰与信が深刻な多重債務問題を引き起こす一因となった歴史を踏まえて導入された経緯があり,規制緩和はこの経緯に逆行するものである。
例えば,長崎県消費生活センターの平成30年度の統計(役務)によれば,フリーローン・サラ金(ヤミ金を含む。)に関する消費者相談件数は,デジタルコンテンツに関する相談に次いで第2位の件数となっている。このように,長崎県内に限っても多重債務問題に苦しむ消費者は依然多いことがうかがわれる。
また,日本弁護士連合会が実施している破産事件記録調査によれば,近年,負債額が100万円未満で破産に至った者の割合が顕著な増加傾向にあり,少額であれば多重債務のリスクが低いとは言い難い。
利用限度額を10万円以下と限定しても,利用限度額10万円以下のクレジットカードが複数交付されてしまった場合,業界全体でクレジット債務額を共有することによって多重債務化を未然に防止するという制度趣旨が没却されてしまいかねず,過剰与信規制の実効性を欠く。
よって,指定信用情報機関への信用情報の照会義務及び基礎特定信用情報の登録義務を免除することは,決して許されるべきものではない。
- 3 クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」についても,信用情報の照会を行わない以上,既に他社からの借入で多重債務状態にある者に対してもクレジット与信することが可能になりかねず,過剰与信規制の実効性を失わせる。
仮に,「技術やデータを活用した与信審査方法」を支払可能見込額調査義務(同法第30条の2第1項)の代替手段として認めるとすれば,事前の措置として,行政等の第三者が当該与信審査方法の合理性を審査する手続と,事後的措置として,貸倒率又は延滞率等の客観的検証手続を設けることの両方の措置を講ずるべきである。
- 4 前記の規制緩和策は,過剰与信規制の実効性を失わせるものであり,多重債務問題防止の観点から看過することはできない。当会は,過剰与信規制の規制緩和に強く反対する。
2019年(令和元年)9月19日
長崎県弁護士会
会長 森 永 正 之
会長 森 永 正 之