長崎県弁護士会 会員 清水 康寛
中小企業・個人事業主の皆様に関係する制度のうち,保証・時効に関する制度や,裁判で認められた請求権(債権)を実現するための民事執行の制度が,来年に改正されます。
まず,保証についてです。例えば,卸売業者が,小売店や販売店に販売する商品について,普段の数倍の発注を受けたとしましょう。卸業者としては大きな売上をあげるチャンスですが,一方で,普段の数倍の発注ですので,普段ならきちんと代金を支払ってくれる販売店であっても,期限までに支払いをしてくれるか,不安になるかもしれません。そんなときに,商品代金について,保証人をつけることがあると思います。
この場合,法改正により,小売店や販売店は,自身の財産・収支に関する情報を保証人に対して提供しなければならなくなりました。その情報提供がされなかったり,事実と異なったりしたことにより,保証人が誤認をして保証契約をした場合に,卸売業者がそのことを知ることができたときは,保証人は,保証契約を取り消すことができることとなっています。
卸売業者としては,万一にも保証契約が取り消されることのないように,対策として,小売店や販売店から保証人に対して提供された情報の書かれた書面に,保証人と小売店・販売店の両者から署名押印をしてもらうことが考えられます。
次に,時効についてです。多くの取引をしている中で,既に代金が払われたかどうか,納入品の間違いがあったかどうかなどについて,意見が食い違っているうちに,代金の請求権が時効にかかってしまうこともあります。この場合,法改正により,その権利についての協議を行うとの合意が書面によってされたときは,合意時から最大1年間,時効の完成が猶予されることになりました。
更に,裁判で認められた請求権(債権)についてです。相手方が支払いに応じない場合には,相手方の財産を差し押さえて回収する手続が必要です。これを「強制執行」と呼びますが,その際に,裁判所を通じて,金融機関(銀行,証券会社等)から,預貯金や株式などに関する情報を取得する手続が新たに設けられました。支払いに応じない相手方の財産を探し出して,強制的に支払わせる手段がより充実することとなりました。
長崎県弁護士会では,この他の改正点や,中小企業・個人事業主の方への影響について,2019年9月9日(月)長崎商工会議所において,シンポジウムを行い,併せて,法律相談会を開催します。
(2019年8月25日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)