第1 声明の趣旨
当会は、被爆地長崎の弁護士会として、日本政府に対し、核兵器禁止条約に署名した上で、同条約を批准するよう求める。
第2 声明の理由
- 2017年(平成29年)7月7日、国際連合総会にて、国連加盟国のほぼ3分の2となる122か国・地域の賛成で採択された核兵器禁止条約について、本年10月24日、その批准国(加入国を含む。)が本条約の発効に必要な50か国に達したため、2021年(令和3年)1月22日に発効されることとなった。
- 原子爆弾による未曽有の惨禍を経験したここ長崎の地には、罪のない多くの市民が凄惨かつ悲惨な死を遂げた事実と、今なお続く被爆者の苦しみがある。日本は、長崎及び広島に原爆を投下された唯一の被爆国であり、かつ、核兵器禁止条約の前文には、核兵器使用の犠牲者として「ヒバクシャ」が明記され、「被爆者が受けた容認しがたい苦しみや被害等に留意する」旨、被爆者に対する憂慮が再確認されている。このことからも、日本政府は、二度と被爆者を生み出さず、核なき世界の実現のためにリーダーシップを発揮し、本来は率先して、この条約の署名及び批准をすべき立場にある。
ところが、日本政府は、この核兵器禁止条約について、核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけでは抑止を効かせることは困難であるため、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要だとして、「核の傘」による安全保障政策を理由に署名に応じない姿勢を維持している。 - しかし、「核の傘」についての実証的な裏付けは十分ではない。また、「核の傘」が核を引き寄せる「避雷針」になってしまう危険もある。
国家間の緊張を軍事力で抑えようとすると、警戒した相手も軍事力を拡大させていくため、際限ない軍拡競争に陥ってしまう。核兵器がひとたび使用されれば、取り返しのつかない事態となることは過去の経験から明白であり、意図的な使用でなくとも、偶発的な事故、機器の誤作動、人的ミス、サイバー攻撃による核爆発等が絶対に生じないとは誰にもいえない。よって、核による抑止を継続するという選択肢を今後も選び続けることは、人類の生存、環境等に対する壊滅的被害を及ぼす危険を常に内包するものであり、そのような方法による平和維持は、真の平和とはいえない。日本政府は、核の抑止力に依存する安全保障政策の転換を図るべきである。 - 当会は、被爆地長崎の弁護士会として、基本的人権の擁護と社会正義の実現を担う弁護士の団体として、再び原爆の惨禍を繰り返してはならないという強い思いのもと、核なき真の世界平和を実現するために、日本政府が速やかに核兵器禁止条約への署名及び批准をすることを強く要望する。
2020年(令和2年)12月25日
長崎県弁護士会
会長 中 西 祥 之