長崎県弁護士会 会員 黒岩 英一
皆さんは、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」をご存じでしょうか 。
このガイドラインは、自然災害の被災者が二重ローン等の過重となった債務を円滑に整理し、生活や事業を再建することを目的としたもので,金融機関などの関係団体が自主的に作った準則(決まり)です。災害救助法の適用を受けた自然災害に適用され、これまでも熊本地震や西日本豪雨災害などの被災者支援に使われてきました。本年8月11日からの大雨災害について、雲仙市、南島原市の大雨災害にも適用されることになりました。
債務整理をするには、自己破産や個人再生手続などの手続きもありますが、このガイドラインの利用には大きなメリットがあります。主なメリットは,債務整理にあたり、①弁護士など登録支援専門家の支援を無料で受けられ、②自己破産などの法的手続きよりも多くの財産を手元に残したうえで債務の減額や免除を受けられる可能性がある、③信用情報に登録されない(いわゆる「ブラック」とはならない。)ので、その後の生活や事業を再建するための新たな借り入れの可能性がある、というものです。
他方で、ガイドラインを使うためには、債務者自身で、最も借入残高が多い債権者から制度を使うための同意を得たり、弁護士会への手続支援を依頼したりする必要があります。また、対象となるのは個人のみで法人は対象にならず、災害によって返済が難しくなったといえなければならないなどの要件を満たす必要があります。ただ、要件を満たす限り、メリットは大きいです。
ところで、令和2年10月30日、新型コロナウイルス感染症もガイドラインの対象となることが決まり、令和2年12月1日から、適用が開始されました。新型コロナウイルス感染症を自然災害の一つとして捉え、被災者の再スタートを後押しするための対応です。
長崎県弁護士会でも既に数件受け付けており、手続きが進められています。7月に入って、長崎簡裁でガイドラインに沿った調停が初めて成立し、本紙でも報道されました。
新型コロナウイルス感染症の社会に対する影響は極めて大きく、これによって債務の返済が難しくなった方も多くおられると思いますが、要件を満たすなら、自己破産手続などよりも有利な条件で債務整理ができる可能性があります。
もし債務の返済にお困りであれば、まずはガイドラインの利用を検討されてみてください。また手続きを進めた結果、ガイドラインの適用が難しいとなっても、法的な債務整理手続を利用することはできます。
ガイドラインに関してよく分からないような場合には、最寄りの弁護士または弁護士会に直接相談されてください。
(2021年9月8日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)