長崎県弁護士会

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2022年(令和4年)4月27日

 

 

内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 若宮健嗣 様
消費者庁長官 伊藤明子 様
消費者委員会委員長 後藤巻則 様
特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会座長 河上正二 様
特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会
ワーキングチーム主査 鹿野菜穂子 様

長崎弁護士会      
会 長  濵 口 純 吾

 

 

第1 意見の趣旨

 特定商取引に関する法律及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「特定商取引法等」という。)の契約書面、申込書面及び概要書面(以下「契約書面等」という。)の電子化に関する主務省令を定めるに際し、消費者の適正な保護の観点から、以下の事項を実現することを求める。

 

1 契約書面等を電子化することにつき消費者の真意に基づく明示的な承諾を確保するために必要な措置を定めること。具体的には、以下の事項を定めること。

(1) 消費者に対する事前説明

 ①現実の書面交付が原則であること、②提供する電子データは契約内容及びクーリング・オフ制度等を記録した重要なものであること、③後述の確認メールの返信日がクーリング・オフの起算日となることを、事業者は消費者に対し事前に説明すること。

(2) 承諾書面の作成及び承諾書控えの交付

 契約書面等の電子化に関する承諾については消費者が書面上で署名する方法で行うとともに、事業者は消費者に対し承諾書控えを現実に交付すること。

(3) 不適正行為の禁止

 契約書面等の電子化を勧誘するに際し、①電子化の必要性や有利性につき虚偽又は誇大な説明をすることや、②電子化を承諾することにより商品代金等の取引条件を有利に取り扱う旨を事業者が消費者に対し告げることを禁じること。

 

2 契約書面等の電子化の対象をこれに対応することができる適合性を有する消費者に限定すること。具体的には、契約内容等を記録した電子データを確実に受領・保存し確認することができる知識、経験及び環境を有する消費者に限定するとともに、この点につき事業者が確認すること。

 

3 消費者が高齢者や障がい者である場合には、事業者は消費者に対し、家族等への電子データの提供を希望するか否かを意思確認するとともに、消費者が希望する場合には、事業者は家族等に対し同じ内容の電子データを提供すること。

 

4 契約書面等を電子化する場合は、契約内容及びクーリング・オフに関する事項につき契約書面等を現実に交付する場合と同程度の告知がなされること。具体的には、以下の事項を定めること。

(1) 契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイルを、電子メールに添付して送信する方法による提供を原則とすること。

(2) 電子データを添付した電子メールの本文に、①商品名、数量、代金額、申込日等の契約を特定するために必要な事項、②添付した電子データが契約書面に代わる重要なものである旨、③クーリング・オフの送信先メールアドレスを含むクーリング・オフに関する事項、④添付された電子データを消費者が自己の電子計算機に保存し閲読したうえで確認メールを返信した日がクーリング・オフの起算日であることを、事業者は明示的に示すこと。

(3) 販売業者は、電子データを提供したときは、遅滞なく、添付された電子データを保存し現実に開いて閲読した旨の確認メールが当該消費者より返信されたことを確認すること、一定の期間内に消費者から確認メールが返信されないときは、遅滞なく書面を交付すること。

 

5 契約書面等の電子化に承諾した消費者の求めに応じて電子データを再提供すること。

 

6 上記1~5の各事項について事業者に義務付けるとともに、事業者が上記1~5の各義務のいずれかに違反した場合は行政処分の対象とするほか、上記1~4の各義務に違反した場合はクーリング・オフ期間が開始しないことを明記すること。

 

 

第2 意見の理由

1 はじめに

(1) 2021年(令和3年)6月16日、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が公布された。改正法は、特定商取引法及び預託法が規定する販売業者等の契約書面等交付義務(以下「書面交付義務」という。)に関し、消費者の承諾を得た場合に、契約書面等の電子化と電磁的方法による提供を可能とした。そして、改正法は「電磁的方法による提供」の具体的規律を主務省令に委任しているところ、現在、消費者庁は「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」(以下「検討会」という。)を設け、契約書面等に代えてその記載事項について電磁的方法による提供が可能な場合の消費者からの承諾の取り方、電磁的方法による提供のあり方等についての検討を継続している。
 同改正法については、消費者保護の観点から、日本弁護士連合会、全国各地の弁護士会及び消費者団体が反対意見と懸念を表明し、同年1月13日、当会も「オンライン取引における特商法の書面交付義務の拙速な電子化に反対する声明」を公表した。
 加えて、2021年6月4日、参議院地域創生及び消費者問題に関する特別委員会は、改正法につき附帯決議として「書面交付の電子化に関する消費者の承諾の要件を政省令等により定めるに当たっては、消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されることを確保するため、事業者が消費者から承諾を取る際に、電磁的方法で提供されるものが契約内容を記した重要なものであることや契約書面等を受け取った時点がクーリング・オフの起算点となることを書面等により明示的に示すなど、書面交付義務が持つ消費者保護機能が確保されるよう慎重な要件設定を行うこと。また、高齢者などが事業者に言われるままに本意でない承諾をしてしまうことがないよう、家族や第三者の関与なども検討すること」を、政府に対し要請している。

(2) そもそも、特定商取引法等が書面交付義務とクーリング・オフ制度を定めた趣旨は、不当な勧誘や複雑・不明瞭又は客観的判断が困難な契約内容から生じるトラブルから消費者を保護することにある。
 例えば、①訪問販売、電話勧誘販売や訪問購入であれば、勧誘の不意打ち性、攻撃性という問題性を、②連鎖販売、業務提供誘引販売取引や預託取引であれば、複雑・不明瞭な契約内容を充分に理解しないまま多額の利益等に幻惑されて契約してしまうという問題性を、③特定継続的役務提供であれば、役務の内容、質、効果の客観的判断が困難なまま長期的な契約を締結せざるを得ないという問題性をそれぞれ内在している。それゆえ、消費者を不当な契約から解放するためにクーリング・オフ制度が設けられ、その前提として、消費者に契約内容やクーリング・オフ制度を正確に把握させるために書面交付義務が設けられている。
 このように、書面交付義務は、クーリング・オフ制度の不可欠な前提をなす重要な規律である。

(3) この点、検討会では、「電磁的方法による提供」の具体的規律に関し、一部の委員から電気通信事業法や割賦販売法に倣った規律を求める意見が出されている。
 しかしながら、これら2法と異なり、特定商取引法等は、事業者の登録制や届出制による参入規制を設けていない。そのため、悪質な事業者が紛れ込む余地が大きいうえ、そもそも特定商取引法等は不当な勧誘等によるトラブルが多い取引類型を特に規制するものである。よって、これら2法と同様の規制にとどめるのは妥当ではない。

(4) 以上のように、消費者庁が現在検討している「電磁的方法による提供」に関する具体的規律の在り方は、消費者保護の観点から決して軽視することはできない問題であり、厳格な制度設計が求められる。

 

2 消費者の真意に基づく明示的な承諾の必要性(意見の趣旨1項関係)

 前述のとおり、契約書面等は、クーリング・オフ制度の不可欠な前提をなす重要な書類である。そのため、消費者がその重要性を充分に認識しないままに電子化に承諾することは、本質的に望ましいことではない。一方で、悪質業者は、訪問販売等において、不当な勧誘により意思決定過程を歪めることで、消費者に真意とは異なる意思決定をしばしば行わせてきた。
 そこで、電子化の承諾場面で類似の被害を生まないためには、事業者による適切な事前説明(意見の趣旨1(1))、書面による意思確認(同(2))、不適切な行為の禁止(同(3))が不可欠である。これに対し、電子画面上のチェックボックスにチェックする方法は、承諾の確認方法としては不適切であり、許されるべきではない。
 例外的に電磁的方法による承諾を認めるケースは、オンラインでアクセスして契約を締結しオンラインで役務提供を行うオンライン完結型特定継続的役務提供に限るべきである。その場合も、Webサイト等で意見の趣旨2(1)記載の各事項について事前に説明したうえで、明示的に承諾の意思表明を行う手続とすべきである。

 

3 契約書面等の電子化に関する消費者の適合性(意見の趣旨2項、3項関係)

 前述の参議院地域創生及び消費者問題に関する特別委員会附帯決議では、「デジタル機器に不慣れな高齢者や障がい者が、デジタル技術を利用した新手の消費者取引のトラブルや悪質業者による訪問販売等の被害に遭う」おそれが示唆されている。同様に、このようなデジタル機器に不慣れな消費者は、その性質上、契約書面等の電子化の対象から除外されるべきである。具体的には、電子データを自ら適切に確認できる知識、経験及び環境といった適合性の有無を、事業者は承諾の取得前に確認すべきである(意見の趣旨2)。
 加えて、消費者が上記適合性を充足する場合であっても、高齢者又は障がい者である消費者が契約内容等をきちんと理解するためには、附帯決議のとおり、家族等の関与が必要となりうる。そこで、事業者は、高齢者又は障がい者の消費者について意思確認を行うとともに、当該消費者が希望する場合には、事業者は家族等に対し同じ内容の電子データが提供されなければならない(意見の趣旨3)。

 

4 クーリング・オフ制度等の告知の重要性(意見の趣旨4項関係)

 契約書面等の電子化は、従来の書面交付義務の代替手段として許容されるものである以上、電磁的方法による提供が従来の書面交付と同じ機能を有するものでなければならないことは当然である。
 よって、契約書面等と同様に、一覧性があり読みやすく、かつ改ざんができない形式で提供されるべきであり、具体的にはPDFファイル等が望ましい(意見の趣旨4(1))。
 また、電子メール等に添付されたファイルは、消費者によっては受領後も展開せずに放置してしまうことが懸念される。そのため、電子メール本文にも、重要事項を記載するとともに、添付ファイルが重要なものであることを記載して注意喚起をさせるべきである(同(2))。
 加えて、現実に書面を交付する場合と異なり、電子メールの添付ファイルについては受信者がこれを見過ごしてしまう頻度が相対的に高い。そこで、クーリング・オフ制度等の告知の重要性に鑑みれば、その起算日は消費者のメールサーバに電子メールが到達した時点ではなく、消費者が自己の電子計算機に電子データを現実に保存し閲読した時点をまずは基準とすべきである。さらに、電子メールが消費者の電子機器に確実に到達したことを確認できる技術的手段が確立されていない現状において、クーリング・オフ起算日に関する消費者・事業者双方の認識を共通化させるためには、消費者からの確認メールの返信によってその時期を確認する必要があり、確認メール返信時をクーリング・オフの起算日とするのが妥当である。そこで、電磁的方法により提供された契約書面に関し消費者の電子計算機に備えられたファイルに記録されたことの確認義務を定める割賦販売法施行令27条3項に倣い、電子データの到達及び消費者による記録(保存)が、事業者によって遅滞なく確認されなければならない。さらに、クーリング・オフ制度及びその告知の重要性に鑑みれば、消費者が添付ファイルを開いて閲読したことも、同様に事業者によって遅滞なく確認されなければならない(同(3))。
 なお、検討会にて一部委員の提案する他の方法(PDFファイル等をダウンロードできるURLを記載した電子メールを送信する等)は、いずれも消費者保護の観点から実効性が弱いものであるとともに、書面交付義務において「直ちに」又は「遅滞なく」提供することが求められていることとの均衡から妥当ではない。

 

5 電子データの再提供の必要性、容易性(意見の趣旨5項関係)

 電子データは無形物であるうえに、操作を誤って消去してしまうおそれも否定できない。それゆえ、消費者によっては契約書面等よりも紛失するリスクが高いといえる。一方で、電子データであれば、事業者における再提供の負担は特段大きいとはいえない。
 そこで、このような紛失リスクに対応するためにも、消費者の求めに応じて電子データの再提供がなされるべきである。

 

6 実効性確保の必要性(意見の趣旨6項)

 意見の趣旨1~5項の規制の実効性を確保するためには、事業者の法的義務とする必要がある。加えて、義務違反については行政処分の対象とするとともに、意見の趣旨1~4の各事項については消費者保護の観点からクーリング・オフ期間の不開始というペナルティを与えるのが妥当である。

 

 

第3 結語

 以上のとおり、特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する主務省令に関し、消費者保護の観点から適正な措置を講じることを求める。

 

 

以上

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