長崎県弁護士会 会員 樋口 聡子
刑事裁判を通じた犯罪被害者支援をご存じですか。これから、犯罪被害にあわれた方が利用することができる刑事裁判上の制度をご説明します。
まず、被害者やご遺族等は「心情等意見陳述制度」により、刑事裁判の場で、被害にあってどんなに苦しい思いをしたか、加害者に対してどう思っているかなど、自分の気持ちを述べることができます。
被害者の心情を裁判官や加害者に直接伝えることができる唯一の機会となることが多く、また、被害者の生身の感情に直面することにより加害者に真摯な反省が生じ得るなど、とても意義のある貴重な制度です。
次に、殺人や傷害、強盗致死傷など故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や、強制わいせつ、強制性交、過失運転致死傷などの一定の犯罪では「被害者参加制度」が利用できます。
これは被害者やご遺族が裁判に出席し、証人や加害者に対して質問したり、「懲役20年を求刑します」などと加害者に科してほしい刑を述べたりすることができる制度です。被害者等は傍聴席ではなく、検察官の隣などに着席します。被害者が加害者や傍聴人から見えないように衝立を立てることも可能です。
また、被害者と加害者の話合いで損害賠償額が決まらない場合、被害者が加害者に賠償金を請求するには、被害者が必要な証拠をそろえて民事裁判を起こさなければなりません。
しかしながら、一定の犯罪については、裁判所が加害者に有罪判決を言い渡した後、引き続き損害賠償について判断し、加害者に損害賠償を命じる「損害賠償命令制度」を利用することにより、民事裁判を起こす労力を軽減することができます。
他にも、損害賠償に関しては「刑事和解制度」があります。被害者と加害者との間で損害賠償の取り決めがなされた場合、支払が滞っても公正証書の作成がない限りはいったん民事裁判を起こさなければ強制執行ができませんが、その示談内容を刑事裁判の調書に記載してもらうことで、民事裁判をせずに強制執行ができるようになります。
これらの制度の利用には、専門的知識が必要な場合や、どの制度を利用した方が良いかの判断が必要な場合もあります。そのため、被害者の方は、被害を受けて大変なときだからこそ、負担を少しでも軽減できるよう、弁護士や犯罪被害者支援センターなどによるサポートをご利用ください。
弁護士費用について心配な方は、一定の要件を満たす場合、犯罪被害者法律援助制度や国選被害者参加弁護士制度などの援助を受けることが可能です。
誰しもが犯罪被害者になりえる現代社会において、これらの制度が被害にあわれた方々に対する一助となりますように。
(2022年4月2日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)