長崎県弁護士会 会員 増﨑 勇太
今年、食品の産地偽装問題が報道で大きく取り上げられました。産地偽装は食品表示法等の法律に違反する違法な行為ですが、このような違法行為は企業の外部から気づきにくいことが少なくありません。
企業内での違法行為に最も気づきやすいのは、その企業のもとで働く従業員等です。しかしながら、従業員等が違法行為を外部へ通報すれば、企業がその従業員等に対して解雇などの報復行為をすることも考えられます。そのような報復の懸念が払拭できなければ、従業員等は容易には通報ができません。
そこで、公益通報者保護法という法律は、労働者が被害の拡大防止等の公益目的で違法行為の通報を行った際、その労働者に対して解雇や降格等の報復を行うことを禁止しています。
本年6月、その公益通報者保護法の改正法が施行されました。主な改正の内容は以下のとおりです。
①現に就労している労働者だけでなく、1年以内に退職した労働者や役員等による公益通報も保護の対象になりました。
②違法行為等がされていると思われる場合であって、十分な証拠を収集することができない場合であっても、通報者自身の氏名住所等を記載した書面によって関係行政機関に対する通報を行う場合は、保護の対象となりました。
③事業者の不法行為によって回復できないほどの財産的被害が発生すると信じるに足りる相当の理由がある場合(違法な廃棄物処理により重大な環境被害が発生することが明らかな場合など)等において、被害防止のために必要であれば、マスコミや消費者団体等の外部団体への公益通報を保護対象にするなど、外部通報の保護対象が拡大されました。
④事業者に対し、公益通報受付窓口を設置しその責任者を定めるなど、内部通報に適切に対応するために必要な体制を整備する義務が課されました(ただし、従業員の数が300人以下の中小事業者については、努力義務にとどまります)。
今回の改正の中でも、特に重要なのが公益通報受付窓口設置義務化です。企業内の不祥事が不意に交流サイト(SNS)等で拡散し、いわゆる「炎上」を引き起こすという事態も近年では珍しくなくなってきました。
企業が自らの内部の不祥事について情報提供を受ける窓口を設置し、従業員が違法行為の報告をしやすい環境をつくることは、違法行為による被害の拡大を食い止め、適切な方法で不祥事を是正、公表することにもつながります。
今回の法改正を契機に、公益通報の意義を再確認し、コンプライアンス(法令順守)のための企業の体制づくりを改めて見直すことは、企業の信頼獲得につながり、企業にとっても大きなメリットがあるはずです。
(2022年9月17日 長崎新聞「ひまわり通信・県弁護士会からのメッセージ」より抜粋)