報道によると、長崎家庭裁判所において、2003年に長崎市内で発生した長崎男児誘拐殺人事件の事件記録及び2004年に佐世保市内の小学校で発生した小6女児殺害事件の事件記録がそれぞれ廃棄された。他の複数の家庭裁判所においても同様の事例があったことが報道されている。
この点、事件記録等保存規程(昭和39年12月12日最高裁判所規程第8号)(以下「保存規程」という。)では、少年保護事件の事件記録等の保存期間を少年が26歳に達するまでの期間(第4条第1項・別表第一第21号)と定める一方で、第9条第2項は、「記録又は事件書類で史料又は参考資料となるべきものは、保存期間満了の後も保存しなければならない。」(以下「2項特別保存」という。)とし、「事件記録等保存規程の運用について」(平成4年2月7日総三第8号高等裁判所長官、地方、家庭裁判所長あて事務総長通達)において、「全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なもの」、「少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件」については、保存規程第9条第2項の特別保存に付するものとしている。すなわち、家庭裁判所では、少年が26歳に達した時期に2項特別保存対象となるか否かを検討し、該当するものは2項特別保存することが義務付けられている。
上記各事件の事件記録が2項特別保存の対象に当たることは明らかである。それにもかかわらず、家庭裁判所がこれらの事件記録を廃棄したのは、廃棄実務において保存規程第4条第1項・別表第一第21号を形式的に運用してきたことが原因ではないかと推測される。
報道によると、長崎家庭裁判所は、事件記録廃棄の経緯として、「特別保存」すべきかどうか具体的な検討をしていた形跡がなかったとしており、形式的な運用をしていたことが明らかであり、また、2020年5月に至るまで特別保存の運用要領の策定をしておらず、少年事件記録を廃棄する際に2項特別保存の対象を適正に指定する体制を整える姿勢に欠けていた。
言うまでもなく、一度廃棄されてしまった記録は、将来いかなる事情が発生しても、二度と検証・研究の対象とすることはできない。そのこと自体は、生育歴等のプライバシー情報を多数含み、立証に必要な範囲に限定せず全記録が裁判所に送致される構造の少年事件においても変わるところがない。
そうすると、問題発覚までの運用は、少なくとも社会の耳目を集めた重大な少年事件の記録について、審理の問題性や法改正の要否・当否、被害者等に対する支援の方策を検証・検討するきっかけとなるものとして、歴史的事実の記録である公文書(公文書等の管理に関する法律第1条)としての意味をも有し、その適切な保存が国民の重大関心事であることなどに配慮していないと言わざるを得ない。
各地の家庭裁判所における重大な少年事件の記録廃棄を受けて、最高裁判所は、事件記録の保存のあり方の適切性につき、外部有識者を交えて検証することを明らかにしており、また、全国の裁判所に対して、少年事件を含む全ての裁判記録等の廃棄を当分の間、停止するよう指示をした。
以上より、最高裁判所に対し、全国の家庭裁判所が現に保存している少年事件の事件記録を廃棄する際に2項特別保存の対象を適正に指定するよう周知徹底すること及び前記各事件を始めとした重大な少年事件に関する事件記録を廃棄している家庭裁判所について廃棄の経緯を調査し、その結果を公表し、調査結果を踏まえた再発防止策を早急に講ずることを強く求める。
また、長崎家庭裁判所に対し、現に保存している少年事件記録を廃棄する際に2項特別保存の対象を適正に指定する体制を構築すること及び最高裁判所が行う調査に積極的に協力し、前記各事件記録廃棄の経緯や少年事件記録の廃棄に関するこれまでの運用について自らも調査し、その結果を公表し、調査結果を踏まえた再発防止策を早急に講ずることを強く求める。
2022年(令和4年)12月1日
長崎県弁護士会
会長 濵 口 純 吾