日本行政書士会連合会は、行政書士法を「改正」し、行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求等の不服申立の代理権を、行政書士の業務範囲とすることを求めてきた。これに対し、日本弁護士連合会をはじめ、日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会、日本弁理士会、全国社会保険労務士会連合会等からも反対がなされた。そこで、日本行政書士会連合会は、2014年(平成26年)3月、不服申立代理権の対象を、「現に行政書士が作成した書類にかかる許認可等」に限定した修正案を作成し、これを今国会に議員立法として提出させようとしている。
しかし、同年4月25日及び同年5月27日、前記各団体も修正案に強く反対する意見を発表しているところであり、以下に指摘するとおり、このような修正をしたとしても、行政書士に不服申立代理権を与えることにより生じる本質的な問題は、何ら克服されていないというべきである。
このため、当会は行政書士に行政不服申立代理権を付与することに強く反対するものである。
反対の理由は以下のとおりである。
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1 行政不服申立制度は、行政庁との間で争いのある事実関係や法律関係について、行政庁に対して不服を申し立てることにより、行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し、もって国民の権利利益を擁護する制度である。
一方、行政書士の主たる職務は、行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として (行政書士法第1条)、行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成するものである。
行政手続の円滑な実施に寄与することを役割とする行政書士が、行政庁に対して不服を申し立てるということは、その職務の性質上本質的に相容れない。
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2 行政書士の業務は、法律常識的な知識に基づいて、依頼者の意思内容を整序して書類作成等をするというものであり、行政書士は行政法の専門家ではなく、その資格に求められる知識・能力に固有の専門性はない。
これに対し、行政不服申立において国民の権利利益を救済するためには、行政不服審査法のみならず、行政事件訴訟法や民事訴訟法にも精通し、かつ行政法の法解釈及び事実認定を行うことのできる知識・能力が不可欠である。
行政書士資格にはこのような行政不服申立を代理する知識・能力は前提とされておらず、行政書士にその権限を認めることは、国民の権利利益を擁護するどころか、かえってこれを阻害する危険がある。
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3 改正案では、日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士である「特定行政書士」にのみ、行政不服申立代理権を付与するとしている。
しかし、当該研修は、日本行政書士会連合会がその会則によってのみ定めているものであり、他士業と異なり、国が何らの責任を負わない制度設計になっている。また、そもそも固有の専門性のない行政書士に対する研修の効果は、極めて希薄なものとならざるを得ない。
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4 行政不服申立は、国民と行政庁との対立関係を前提とするものであるところ、行政書士の監督や懲戒は都道府県知事が行い、行政書士会に対する監督は都道府県知事が、日本行政書士会連合会に対する監督は総務大臣が、それぞれ行うものとされている。したがって、このような行政書士については、行政不服申立において、自己の監督機関等である国や都道府県に対して心理的に委縮してしまうことが強く懸念され、果たして行政庁との対立関係に立って国民の権利利益を擁護することができるのか、大いに疑問がある。
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5 国民による行政不服申立を代理する資格者が充分に確保できていないという事実は実証されておらず、従って、行政書士に行政不服申立の代理権を付与する前提としての立法事実を欠いている。
弁護士は、これまでも、出入国管理及び難民認定法、生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で、行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。そして、今後も、弁護士人口の増加等により、行政不服申立の分野にも弁護士が一層関与してゆくことが確実に予想される状況にあるから、行政書士法を改正して行政書士の業務範囲を拡大する必要性はない。
以上の理由から、当会は行政書士に行政不服申立代理権を付与することに強く反対するものである。
会長 髙尾 徹